Highnoon romancE

現在の閲覧者数:

「小説〔短編〕」
陽炎の桜

陽炎の桜 14

 ←『楽園~a Paradise』act.8 うpしましたと言いつつ今更ながらのあけおめっす →links―Photos/Materials
 それ以降の数日間は脱力したように過ごしていた。早い話が無気力状態で、何もする気が起きないでいる。当然、一切の仕事は断っている。引き籠もって立ち上がる為の準備期間だと自分を誤魔化すのも悪くはないと思っていたし、またそれを正当化しているのだった。
 あれからトキは姿を見せていない。どうせ俺が仕事もしていないのだからここに来る必要もないとでも思っているのだろう。今頃はどこぞのおねーちゃんと好き勝手に乳繰っている頃だろう。
 一方の陽彦は――『この場所』にずっといるらしい。なるべく顔を合わせないように気遣ってくれているのか、それともみっともない俺に見切りを付けたか。どっちにしろ陽彦の肌の墨は完成していないので動きようがないのが真実なんだろう。
 別にどちらだって構わないと思うそれ以前に、震える程の寂寥感が肌を掠める。
 俺は陽彦の『期待』に応えられないのはもちろんだが、それよりも『憧れ』というものに強い引っ掛かりを感じてしまう。華やかでありながら甘酸っぱいその言葉があれから纏わり付いている。
 陽彦の中で『高嶺』にあったものを見事に破壊してしまったのだ。胃の内容物をブチ撒いて放心したままの俺を見ても尚、そんなものを抱いていられるのだろうか……と自分に置き換えて考えてみても『否定』であり『無理』の結論しか出てこない。否定はその色を濃く持ったまま強い肯定を促して、思考回路を漂うように意味なく循環している。
 余りにも面倒過ぎてもう意味も何も考えたくない、というのが正直な気持ちだった。
 夜というのに派手なレコードをかけて朝までふざけようワンマンショウで――と昔の歌を口ずさむが、それが出来れば苦労はしない。
 深い溜め息と共にベッドに横たわって窓の外を見る。もうそろそろ桜の花びらが綻ぶ頃か。
 陽彦と出逢ってからもうすぐ1年が経つ。なのに俺はまだ堂々巡りを続けているだけだった。部屋に残る墨の匂いがそれを加速させてゆく。
 憂鬱は拭い切れた筈なのにまだ俺は『不幸』な自分に酔っているのか――?

 障子をノックする音に何も応えず眼を閉じる。
「祐さん、起きてる?」
 寝てるから黙っててくれと心の中で毒づいてみる。
「起きてるんでしょ?」
 また障子を叩く音がする。どんな音も俺の世界にはいらない……布団を被って背を向ける。
 暫くすると静かになった。
 そう、それでいい。
 音のしない空間に身を浸して窓から降り注ぐ柔らかな光に包まれて微睡み始めたその時だった。
「おい、泉川祐一郎!」
 トキに向けた鋭い声と共に障子が手荒く開いた。固有名詞に混乱した。随分と力強い足音がしたかと思うと布団が剥がされる。そうして驚く暇もなく陽彦が俺の腰の上に跨った。
「な……何なんあんた!?」思わず叫ぶ。
「……刺青、全然進んでないよね?」
 陽彦は表情を消して俺の骨盤を太腿でグイと締め付ける。
「スランプやねん」
「へえ、スランプねえ。上手いこと云うな」
「……退いてくれへんかな? 邪魔やねんけど」
「退かない。退きたくない」
「あ、そう。好きにしたらええん違う? ……とにかく退いてくれへんかな」
 陽彦に見詰められ、また触れられているだけで興奮が駆け上がって来る。
「そのカッコでおる云うからには、気持ちようしてくれるんか?」
「そんなつもりじゃ……」
「そんなつもりも何もないやろ」デニムに包まれた陽彦に触れる。まだ半分くらいしか勃ち上がっていないが、痛いところに触れればそのまま発情しそうだ。
「ヤりたいんか?」
「そういうわけじゃ……、ない」
「へえー」面白半分に胸を弄ってみると小さい声で応えた。腰を掴んで股間を擦り合わせると身を捩る。
「その気になってるんやないか……」
 すると陽彦が伸し掛かって来る。蕩けたものを覆い隠そうとしつつも俺を見据える強い瞳に惹かれてしまう。
「本当に意地悪なんだね」
「性格が悪いってか? それ、俺にとっては褒め言葉や……」
 全て言い終わらない内に俺の上に崩れ落ちる。身を任せるように
「てめえ……ムカつくんだよ」
 そう吐き出して陽彦は低く笑った。
 どこか曇った声が靄のように立ち込めたものを逆撫でてゆく。
 その感情を宥めて不意に陽彦を強く抱き締めてしまった。





お気に召されましたら、ぽちっと一発お願いします
にほんブログ村 小説ブログ BL短編小説へ

blogram投票ボタン
 
関連記事


お礼落描き付きはこちらから!! web拍手 by FC2
総もくじ 3kaku_s_L.png 小説〔長編〕
総もくじ 3kaku_s_L.png 小説〔短編〕
総もくじ 3kaku_s_L.png 小説〔掌編〕
総もくじ 3kaku_s_L.png 外伝
総もくじ 3kaku_s_L.png collaboration
もくじ  3kaku_s_L.png INDEX
もくじ  3kaku_s_L.png CAUTION!!
もくじ  3kaku_s_L.png 感謝
総もくじ  3kaku_s_L.png 小説〔長編〕
総もくじ  3kaku_s_L.png 小説〔短編〕
総もくじ  3kaku_s_L.png 小説〔掌編〕
もくじ  3kaku_s_L.png 2012 Christmas-Tales
総もくじ  3kaku_s_L.png 外伝
総もくじ  3kaku_s_L.png collaboration
もくじ  3kaku_s_L.png 同人誌関連
もくじ  3kaku_s_L.png 解説・言い訳etc
もくじ  3kaku_s_L.png 設定関係
もくじ  3kaku_s_L.png 落描き
もくじ  3kaku_s_L.png いただきもの
もくじ  3kaku_s_L.png 諸雑記
もくじ  3kaku_s_L.png サイト更新関連
もくじ  3kaku_s_L.png ヒーリング
もくじ  3kaku_s_L.png 自家発電
  • [『楽園~a Paradise』act.8 うpしましたと言いつつ今更ながらのあけおめっす]へ
  • [links―Photos/Materials]へ

~ Comment ~

管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

~ Trackback ~

卜ラックバックURL


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

  • [『楽園~a Paradise』act.8 うpしましたと言いつつ今更ながらのあけおめっす]へ
  • [links―Photos/Materials]へ